染と織地域別辞典

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江戸小紋(えどこもん)

産 地

東京都葛飾区

特 徴

型染染色の一種。
紋様が芥子粒のように繊細なために、遠くからは無地のように見える、一色濃淡の染物。

変 遷

江戸小紋は、江戸時代の武士の正装であった裃の小紋柄から発達したといわれている。小紋は室町時代(一三三八~一五七三)に武士の裃を染めることから始まり、江戸時代の寛永年間(一六二四~一六四四)には裃の柄染として発達した。当時は小紋型、裃小紋と呼ばれ、各大名は藩を表す小紋柄を定めて占有した。しかし江戸も中期になると、一般庶民のあいだにも広まり男女の別なく愛用された。また、柄はよりこまやかに、そして多様になった。
江戸小紋がその名を得たのは昭和三〇年である。この年、小紋型染技法の伝承者である小宮康助氏を重要無形文化財に指定する際に、江戸小紋をほかの多彩色小紋と区別するために、江戸小紋の名がつけられたのである。

染色法

工程は、型彫りと染に大別される。
●型彫り
型紙には、三重県鈴鹿市内で生産される伊勢崎型紙が用いられる。
*地紙 美濃(岐阜県)の手漉楮和紙を用いて「紙付け」をする。紙付けとは、和紙に柿渋を塗りながら紙を数枚、貼り重ねることである。このとき和紙は、タテ目、ヨコ目を交互に貼り合わせてゆく。
紙付け後は、柿渋の粘着力を増加させるために二、三日ねかせてから、天日に干す。その後、室枯らしや自然枯らしをして伸び縮みしない、水に強い生紙に仕上げる
*彫り 彫る模様や彫り方により、使用する地紙の枚数が変わる。多くのばあい七、八枚の地紙を用いる。重ねた地紙のうえに下絵を張り、彫ってゆく。彫り技法は、四種類に大別できる。
錐彫り…切口が半円形の細い錐をくるくると回しながら孔を彫っていく技法。鮫、亀甲、七宝などに用いられる。
突彫り…刀を垂直に立て、刀の柄を右頬にあて、左の指先で彫り口を加減しながら前へ前へと彫り進む技法。青海波、矢羽根、紗綾形などに用いる。
引彫り…上下に星目をつけ、鋼鉄の定規をあてて刀を手前に引きながら彫る技法。きまり筋、変り筋、養老、立涌などに用いられる。
道具彫り…紋様のかたちの切口をした彫刻刀を使って、地紙を垂直に突いて彫る技法。菱、菊、鱗などに用いられる。
*糸入れ 糸で型紙を補強することで、二枚の同じ柄の型紙を柿渋を塗って貼り合わせる際に、その合わせ目に細い絹糸を挟み込んで貼り合わせる。
●染
*引糊 長板(小紋染に用いる板)に生糊(糯米でつくった糊)を薄くむらなく塗り、天日でかわかす。かわいたら、ふたたび同じ作業を行う。この工程を何度か繰り返す。これを引糊という。
*地張り 引糊のかわいた長板に軽く水をさし、刷毛で伸ばす。生地に水を吹きながら、生地を長板に貼る。
*型付け 型紙を生地のうえに置き、防染糊をへらで塗る。へらは竹製のものを用い、竹の弾力を利用して型紙のこまかい部分まで糊を十分にのせる。
*地染 地色を混ぜた色糊を、へらで一気に引き伸ばして布面全体に塗り、地を染める。これを「しごき」という。しごき終えたら生地を長板からはがし、次の蒸しの工程で地糊がずれるのを防ぐためにおがくずをふりかけておく。
*蒸し 摂氏百度の蒸し箱の中で、およそ一時間蒸し、染料を発色、定着させる。
*水元 生地をさましてから水で糊を洗い落とす。
*湯のし よくかわかしてから、しわを伸ばす。
*地直し むらがあれば、むらになっている部分を筆で修正する。

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