中部地方


甲州八端(甲斐絹)(こうしゅうはったん かいき)

*おり*


産 地:
山梨県都留市
特 徴:
綾織組織の絹織物。経、緯糸ともに練絹糸を使う。
光沢がありやわらかく、すべりのよい織物。
用 途:
夜具地、座布団地、服裏地、羽織裏。
変 遷:
甲州八端の始まりは、海貴と呼ばれる中国の絹織物である。十六、七世紀に中国から伝わったこのめずらしい平織が、絹織物のさかんだった甲斐の郡内(山梨県南都留郡、北都留郡)に入り、江戸時代に海貴をまねた郡内海貴が織られた。明治以降、郡内海貴には「甲斐絹」の字があてられた。
大正時代に八王子から八端綾織りの技法が導入され、甲斐絹独特の感触をもつ八端織りが誕生した。
無地海貴 経緯同色の糸で織ったもの。
霜降海貴 経を薄藍の糸で、緯を白の糸で織ったもの。
玉虫海貴 経を赤の糸で、緯を萌黄色または浅黄色の糸で織ったもの。
縞海貴  縞や格子紋様を織りだしたもの。
綾海貴  緯糸で牡丹唐草などを織りだしたもの。

大石唐糸織(おおいしからいとおり)

*おり*


産 地:
山梨県都留郡河口湖町
特 徴:
黄縞が主体の厚手で重めの絹織物。諸撚糸を用いる。
用 途:
着尺地。
変 遷:
河口湖畔では天保年間(一八三〇〜一八四四)に、すでに黄縞の紬織が織られていた。
明治に入り、経糸に撚糸を使う甲州唐糸織の技法が導入され、大石唐糸織が生産されるようになった。
現在でも、昔ながらの一貫作業により生産されている。
唐糸(可良糸)とは中繭と玉繭の諸撚糸のことである。

上田紬(うえだつむぎ)

*おり*


産 地:
長野県上田市
特 徴:
上田地方で生産される縞織物で、上田縞ともいう。
厚地で丈夫な縞紬である。
用 途:
着尺地。
変 遷:
起源は明らかではないが三百年ほど前から織られていた織物で、江戸時代の文化年間(一八〇四〜一八一八)から天保年間(一八三〇〜一八四四)にかけて最盛期を迎えた。京、大阪まで販路を広げ、上田から上方へ「紬飛脚」が仕立てられるほどの隆盛ぶりだった。また、当時の上田紬は藍染系の縞柄で、碁盤縞(格子縞)が主体だった。
明治以降衰退を続けたが、戦後、金井章次氏らの努力により復活し現在に至っている。
現在は、糸紡ぎも織もほとんどが機械化され縞柄も豊富である。

有明天蚕紬(ありあけてんさんつむぎ)

*そめ*

*おり*


産 地:
長野県松本市穂高町有明
特 徴:
天蚕は、山繭とも呼ばれるヤママユガ科の昆虫の繭。この天蚕の繭と家蚕の繭からとった真綿を合わせて手で紡いだ糸を緯糸に、絹糸を経糸に用いて織る。
絹なりがして、上品な薄緑色の光沢がある。軽くて丈夫であたたかい。
用 途:
着尺地。
変 遷:
天蚕の飼育は、天明年間(一七八一〜一七八九)に有明地方のクヌギ林で始まった。
文政年間(一八一八〜一八三〇)には商品として軌道にのり、明治初期から中期にかけては有明村の農家の五〇パーセントが天蚕飼育農家となり年間八百万粒の繭を生産するほどになった。しかし明治時代の後期から、害虫の発生や焼岳の噴火灰などが原因で衰退した。
天蚕自身が病気に弱いことや、戦後、天蚕の主食であるクヌギ林が減少したことなどから増産は難しいが、関係者の努力により、現在でも少量ながら天蚕繭が生産されている。
なお、一〇〇パーセント天蚕の紬はない。天蚕紬の繭の混合率は、天蚕一粒に家蚕十粒の割合である。天蚕の繭を一〇〇パーセント用いた紬をこしらえたとしたら、その紬の価格は、染める前に一五〇万円を超えるだろうといわれている。
古代あしぎぬは天蚕の糸で織ったものと考えられる。

飯田紬(いいだつむぎ)

*おり*


産 地:
長野県飯田市
特 徴:
植物染料で糸染し、手織で織った絹織物。
用 途:
着尺地。
変 遷:
飯田地方で自家用として織られていた紬が飯田紬の始まりである。
江戸時代の文化一三(一八一六)年、喬木村富田の筒井サキノが玉繭から手引きした糸で織った薄絹が富田絹として商品化され、京都で紅梅に染められて人気を集めた。
大正時代には力織機が導入され、さまざまな製品がつくられたが、現在は素朴な手機紬と白生地の生産のみとなった。
染色法:
天竜川流域に自生するさまざまな植物を染料とし、各種の媒染剤(鉄、木炭、みょうばんなど)を用いて糸染が行われる。
染料となる植物は、りんご、柿、梅、栗、よもぎ、しそ、檜、紅葉、茄子、さつまいもなどである。

郡上紬(ぐじょうつむぎ)

*おり*


産 地:
岐阜県郡上郡八幡町
特 徴:
手紡ぎ、植物染、手織による紬織物。 初めの頃は野蚕の一種であるインド産のエリ蚕の糸を用いて織っていたが、現在では玉繭の原糸がほとんどである。
柄はおもに縞、格子、絣だが、斬新な幾何模様のものもある。
絹とウールの特徴を合わせもったような風合いがあり、丈夫でしわになりにくく、あたたかい。
用 途:
着尺地。
変 遷:
この地方は、千年以上昔から良質の絹糸の産地であり、曾代絹と呼ばれるこの地方の絹糸は、伊勢神宮の神職の装束を織る糸と定められていた。その後、平氏の落人がこの地に落ちのびて、野蚕糸を紡ぎ植物で糸染をして織ったところから、郡上織が始まった。
その郡上織をもとに、宗広力三氏の主宰する「郡上織工芸研究所」で昭和二二年から織りだされたのが、現在の郡上紬である。
近年ではエリ蚕糸に代わって、春蚕の繭玉が用いられている。

高山憲法染小紋(たかやまけんぽうぞめこもん)

*そめ*


産 地:
岐阜県高山市七日町
特 徴:
小紋染の一種で、松煙墨を用いた黒染である。
変 遷:
江戸時代の明暦(一六五五〜一六五八)の頃に、京都の剣法師範・吉岡憲房が染めた黒茶色の染のことを憲房染、吉岡染といった。
高山憲法染小紋がいつ誰によって高山に伝えられたのかは明らかではないが、憲房染の技法を応用した黒染の小紋であることは確かである。
染色法染色法:
型紙を布のうえに置き、防染糊(糯米、米糠、消石灰を混ぜたもの)を竹べらでつけ、乾燥させる。
次に、布を伸子張りして豆汁を引き、豆汁とともに練った染料(松煙墨)を刷毛で引染する。
乾燥後、水洗いをして糊を落とす。

掛川葛布(かけがわくずふ)

*おり*


産 地:
静岡県掛川市
特 徴:
葛の蔓からとった繊維で織った布。「かっぷ」とも呼ばれる。
繊維としてはもっとも古いものである。
用 途:
現在は蚊帳、合羽地、襖地、壁布などに多く用いられている。かつては袴地、裃地にも使われていた。
変 遷:
延喜年間(九〇一〜九二三)の頃、朝廷で「けまり」をする際の奴袴として用いられていた。
鎌倉時代から江戸時代にかけては葛袴と呼ばれて夏袴地として用いられていた。無地、縞物、紺染、茶染があった。
染色法:
*五月ごろに葛蔓を刈りとる。
*繊維をとり出し灰汁で十分に煮てから水で晒す。
*経糸には綿糸、大麻糸、絹糸を用い、高機で織る。

ざざんざ織(ざざんざおり)

*おり*


産 地:
静岡県浜松市
特 徴:
玉糸と紬糸が織りなすウールのような地風の絹織物。
平織と綾織があり、柄は、大柄な縞と格子が主体。厚手の手織紬で、紬織を現代感覚で織りだしたもの。
用 途:
平織は着尺地、綾織は羽尺地、コート地、帯地、広幅ものは洋服地、テーブルクロス、ネクタイなど。
変 遷:
古くから遠州木綿の産地だった浜松の織物産業も、大正末期の経済不況により衰えた。
ざざんざ織は昭和初期に、節のある絹の玉糸と真綿から手引、手織したユニークな織物が考案されたことに始まる。考案者は平松実氏で、平松家は代々、遠州木綿の織屋であった。
ざざんざの名は室町幕府の六代将軍・足利義教が狂言「茶壺」の、「浜松のおとはざざんざ」と謡った「颯々の松」から名づけられたといわれている。この故事からざざんざ織は、また、茶道の関係者に人気がある。ざざんざ織は、昭和の新伝承織物といえる。

知多木綿(ちたもめん)

*おり*


産 地:
愛知県知多市亀崎大野
特 徴:
並巾白木綿。
晒地、紅下地、絞浴衣地、捺染浴衣地などがある。
晒地は「知多晒」と呼ばれ、手拭い地などに用いられる。
用 途:
手拭い地、浴衣地など。

有松、鳴海絞(ありまつ、なるみしぼり)

*そめ*


産 地:
愛知県名古屋市緑区有松町、鳴海町
特 徴:
有松、鳴海地方で生産される木綿の絞染。現在は絹物や洋服地にも応用されているが、かつては浴衣や手拭いに用いられていた。
変 遷:
慶長年間(一五九六〜一六一五)に名古屋城の築城に参加した有松の竹田庄屋九郎が、豊後の藩士や石工たちの絞染の衣服を模して、三河木綿で豆絞の道中手拭いを染めたのが始まりだという。また、有松絞の発展の礎を築いたのは豊後から有松に移住した医師・三浦忠玄の妻女で、彼女は土地の人々にくくり染の技法を教えた。
やがて有松絞は、宿場町という地の利も手伝って、尾張藩の特産品としての名声を得るに至った。品質が改良され種類も増えて、藍染だけでなく紅、紫などの染色も行われた。
元禄年間(一六八八〜一七〇四)に湯上がりに浴衣を着る習慣が定着し、絞染の浴衣が発売されると、有松絞は全盛期を迎えた。
染色法:
*下絵 白生地に型紙をあて、青花液(ムラサキツユクサの花汁)を刷り込む。近頃は代用花(合成液)を用いる。
*絞くくり 絞の加工はほとんどが主婦の内職による。絞の技法はおよそ百数十種類あり、各地域、各人ごとに専門の技法をもっている。 おもな技法と、その技法が用いられる製品の種類は次の通りである。
 縫い絞…日の出絞、白影絞、杢目絞など。
 手筋絞…柳絞、みどり絞、竜巻絞など。
 蜘蛛絞…襞取蜘蛛絞、機械蜘蛛絞など。
 三浦絞…疋田三浦絞、石垣三浦絞など。
 巻上絞…竹輪絞、皮巻絞、帽子絞など。
 板締め絞…雪花絞、菊花絞、村雲絞など。
 鹿子絞…本疋田絞、一目絞など。
 嵐絞…松風、亀甲、羽衣など。
 箱染絞
 桶絞
*染色 花抜き(青花液を落とすこと)を終えたら染色をする。以前は藍などの植物染料で染めたが、現在は化学染料で浸染する。
*仕上げ 十分に乾燥させてから、くくり糸をとり除き、湯のしをして幅出しをする。